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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)526号 決定

抗告人(破産者)

河島喜三男

右申立代理人

鈴木光友

主文

1  原決定を取り消す。

2  破産者河島喜三男を免責する。

理由

一抗告の趣旨及び理由

抗告人は、主文と同旨の決定を求め、その理由とするところは、要するに、抗告人に破産法三六六条の九第一号、三七五条一号所定の免責不許可事由が存在するものとした原審の認定、判断の不当をいうものである。

二当裁判所の判断

1  そこで検討するに、本件記録及び抗告人の破産事件記録(原審昭和五九年(フ)第九一号事件)によれば、抗告人(昭和一九年二月一一日生れ)は、昭和三六年一一月以来防衛庁職員(調理士)として航空自衛隊浜松北基地に勤務し、昭和四四年一二月に婚姻するとともに妻の両親と養子縁組をした者であるが、その頃競艇等に耽つて多額の借財をし、昭和五二、五三年頃までに養親の援助を受けるなどして一旦はほぼその返済を終えたものの、若干の残債務の返済と知人の保証債務の支払いなどのためにいわゆるサラ金業者から小口融資を受け、その利息の割合が年一〇割を超えるような高利のものもあつて、利息の支払いのために更に他のサラ金業者から融資を受けるなどのことを繰り返して、結局、合計一、三〇〇万円(券面額)を超える債務を負うことになり、自己破産の申立てに及んだものであること、破産申立時における抗告人の債務の大部分の約一、〇〇〇万円は、本件免責申立てに対する異議申立人株式会社東京プロモーションに対するものであつて、抗告人は、約一〇年来右会社から年七割三分などの高利で小口融資を受け続け、未払利息を加算して準消費貸借契約を締結するなどしてきた結果、右のように債務が累積することになつたものであること、抗告人は、先に競艇等に耽つて多額の債務を負つて以来、この種の射倖行為を慎み、そのために新たな借財をしたようなことはなかつたことの各事実を認めることができる。

右事実によれば、抗告人が右のように過大な債務を負担することになつたのは、右のような方法で安易にサラ金業者から融資を受け続けたこと自体によるものというべきであつて、競艇等の射倖行為はそのひとつの遠因に過ぎないのであるから、これをもつて射倖行為によつて過大な債務を負担したものということはできず、破産法三六六条の九第一号、三七五条一号所定の免責不許可事由には該当しないものと解するのが相当である。そして、他には抗告人に免責不許可事由が存在することを認めるに足りる資料はない。

2  そうすると、抗告人については免責を許可するのが相当であつて、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消して、抗告人を免責することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官西山俊彦 裁判官越山安久 裁判官村上敬一)

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